古事記
海幸彦と山幸彦
三人の御子を設けました。
ある日のこと、弟の山幸彦が兄の海幸彦に、
二人の互の海と山の道具を交換したいと頼み、
しぶる海幸彦からようやく釣り針を借りることが出来ました。
ところが山幸彦は魚を1匹も釣ることが出来なかった上、
釣り針も失くしてしまいました。
山幸彦は「十拳剣 」を鋳潰して500本の釣り針を作って償おうとしましたが、
海幸彦は受け取らず、元の釣り針を返すようにと責めました。
山幸彦が困り果てて、海辺で嘆き悲しんでいると、
そこに「塩椎神 」(=潮流の神)が現れて、その理由を尋ねます。
山幸彦が事情を話すと、
そこに山幸彦を乗せると、次のように指示しました。
「私がこの船を押し流せば、綿津見神 の宮へ行きます。
その門の近くに、井戸と清浄な桂の木があります。
その木の上にいれば、海上の娘が見つけて解決してくれるでしょう」
海神宮訪問
海神の宮に着いた山幸彦は、
海神の娘・豊玉毘売 の侍女が
山幸彦は侍女に水を求めると、
侍女が玉器 に水を汲んで差し出しました。
山幸彦は水は飲まず、
首飾りの玉を解いて口に含み、玉器 に吐き入れました。
侍女がそのまま豊玉毘売 に差し出すと、
侍女は「私達の王のように貴く立派な方が桂の木の上にいます」と
答えました。
一目で気に入ってしまいました。
そこで御殿に帰って、
「門前にご立派な方がおられます」と父の海神に申し出ました。
それを聞いた海神は自ら外に出て、山幸彦を見ると、
「この方は高貴な天孫の御子だ」と仰せられて丁重にもてなし、
娘の豊玉毘売 と結婚させると、山幸彦はそのまま海神の宮に滞在しました。
毎日が夢のように楽しく、あっという間に3年の歳月が過ぎた時、
山幸彦はふと自分がここにいる理由を思い出して、
大きな溜息をつきました。
海神は心配になって、溜息の訳を尋ねました。
山幸彦は、海幸彦が失くした釣り針を返すよう攻め立てた有様を話しました。
綿津見神(海神)は早速、海に暮らす大小の魚を悉く集め、
失くした釣り針のありかを尋ねました。
すると魚達は、
「この頃、赤鯛が喉に骨が刺さってモノが食べられないと愁いています」と
申し上げました。
海神は赤鯛の喉から海幸彦の釣り針を外し、
洗い清めた上で山幸彦に返しました。
そして海水を自由に操ることの出来る「塩盈珠 」と「塩乾珠 」を授けると、
山幸彦に釣り針を返す時に唱える呪文を教えました。
「『この釣り針は、淤煩鉤 、須須鉤 、貧鉤 、宇流鉤 』と唱えながら、
後ろ手に渡しなさい。
また、兄上が高地に田を作ったらあなた様は低地に、
低地に田を作ったらあなた様は高地に作りなさい。
私は作物の出来をコントロールすることの出来る水神です。
3年間で兄上は貧しくなるでしょう。
あなた様を恨んで攻めてきたら、「塩盈珠 」を出して溺れさせ、
苦しんで助けを求めたら、「塩乾珠 」を出して生かしなさい。」
それから一尋和邇 を呼び出して、陸地まで送り届けてくれました。
海幸彦(火照命)の服従
山幸彦は海神に教えられた通りの呪文を唱えながら、
釣り針を兄に返しました。
すると兄の海幸彦は何をやっても上手くいかなくなりました。
海神の予言通り数年で貧しくなり、心も荒み、
遂には邪心を抱き、山幸彦を攻めてきました。
そこで山幸彦は海神の教え通りに「塩盈珠 」を出して溺れさせ、
助けを求めてきたところで「塩乾珠 」を出して助けてあげました。
これに懲りて、海幸彦は完全に屈服。
頭を下げて、
「これから後は、あなた様の守護人として昼夜仕えましょう」と
臣従を誓ったのでした。