梅(うめ)

 
厳寒の中で、他の花に先駆けて咲く
香り高い「梅」は、
『万葉集』に多く詠まれるなど、
縁起の良い花として愛好されてきました。
 
 

梅の基本情報

 
「梅」はバラ科サクラ属の
China原産の落葉高木で、
古くから冬から春の風物詩としても
親しまれてきた花木のひとつです。
 
梅の花は5枚の花びらを持ち、
白色や淡いピンク色、濃い紅色をしています。
ただ「梅」と言えば「白梅」を指し、
紅色の「紅梅」とは区別されます。
また、梅の花は芳香があり、
独特の甘い香りがします。
 

縁起木

 
「梅は百花の魁(さきがけ)」と言われるように、
冬の寒さが厳しい中、
あらゆる花の先頭を切って咲き春を告げる
おめでたい木の象徴です。
 
古くから冬でも葉を落とさない
「松」や「竹」と合わせて「松竹梅」として
正月飾りに使用されてきました。
 
 
また「梅」の生命力の強さから、
病気を退ける花として、
村上天皇が疫病を払うために使用したなど、
多くの逸話があるのも特徴です。
 
 
「梅」の花の香気は特に芳しく、
鬼がその香りをとても嫌うことから、
「梅」には「鬼除け」「厄を避ける」、
縁起の良いものであるとされました。
 
 
更に「梅」という字は
「木偏」と「毎」からなっていますが、
「毎」の本義は、子供を最も多く育てた
母親のことを表します。
梅が実をつける時、必ず、枝々全てに
累々と実をつけていることから、
梅をめでたい樹木と考えたようです。
 
 
「学問の神様」と慕われる菅原道真公の
梅にまつわる逸話「飛梅伝説」に因み、
梅は学業成就を祈願するものとしても
大変人気があります。
 

梅の歴史

日本には、弥生時代に渡ってきたとか、
遣唐使などによって漢方薬「烏梅」(うばい)として
持ち込まれたりなど諸説あります。
 
 
「烏梅」(うばい)は、青梅を薫製・乾燥したもので、
実がからすのように真っ黒になることから
「鳥梅」と呼ばれています。
現在でも、漢方薬のひとつになっています。
 
飛鳥・奈良時代の宮廷では、China貴族を真似て
梅の花を愛でる「梅花の宴」が流行し、
万葉の歌人達にも愛されました。
『万葉集』の花を詠んだ歌で、
「梅」が最多の118首と、
当時は「花」と言えば
「梅」を指していたほどでした。
 
 
なお現在の元号である「令和」(れいわ)は、
『万葉集』の中にある、
天平2年1月13日(新暦2月8日)に、
大宰府の長官・大伴旅人が主催した梅花の宴で
「初春の令月にして 気淑く風和ぎ
 梅は鏡前の粉を披き
 蘭(らん)は珮(はい)後の香を薫らす」
との文言から引用されたものです。
 
「令和」には、人々が美しく心を寄せ合う中で、
文化が生まれ育つという意味が込められている
そうです。
 

梅見

早春のまだまだ寒さの残る頃に、
梅林や山野に出掛けて行って、
ふんわり優しく甘い梅の香りに包まれながら、
鮮やかなピンク色をみせる「紅梅」や
真っ白で美しい「白梅」を愛でることを
「梅見」(うめみ)と言います。
賑やかな桜の花見とは異なり、
静かで清楚な趣があります。
 
一方、まだ冬のうちに春を待ちかねて、
まだ咲いていない梅を求めて足を延ばすことを
「探梅」(たんばい)と言います。
なお「探梅」は冬の季語になります。
 
梅の花の見頃は2月中旬から3月上旬です。
梅は品種によって咲く時期に差がありますが、
この頃には多くの品種が咲き誇ります。
 
現在は「花見」と言えば、「桜」を指しますが、
奈良時代は「梅」でした。
奈良時代の『万葉集』では、
梅が118首で桜は約40首でしたが、
ところが平安時代の『古今和歌集』では逆転し、
春歌134首のうち100首以上が桜の歌で、
梅の歌は10数首しかありません。
 

梅=白梅

 
「梅」には大きく分けて
「白梅」と「紅梅」がありますが、
俳句や短歌で単に「梅」と言えば
大体「白梅」であり、
「紅梅」の場合は「紅梅」と明示します。
「白梅」は清らかで、「紅梅」は艶やかです。
花期は「紅梅」は「白梅」よりやや遅いです。
 
 
実は「梅」は、当初はChina風の
華麗な「紅梅」がもてはやされましたが、
徐々に清楚な「白梅」が好まれるように
なりました。
 
太宰府天満宮にある「飛梅」も
当初は中国風文人であった菅原道真が好んだ
「紅梅」だったのですが、
いつの間にか「白梅」になりました。
 
 
紅梅から白梅へ、花の好みの変化は
日本人の感性の変化を物語っています。
 

梅の別名・異称

春告草(はるつげぐさ)
寒い冬に他の花や植物に先駆けて咲くので、
春の訪れを告げるため。
 
初名草(はつなぐさ)
1年のうち一番初めに咲くことから
 
好文木(こうぶんぼく)
晉の武帝が、
学問に励んでいる時は梅の花が開き、
学問を怠る時は散り萎れていたと
『晉起居注』に見えたと言われる
故事に由来します。
「起居注」(ききょちゅう)
天子の側近にいて、その言行を記録すること。
また、その官職や、記録された文書。
 
花の兄(はなのあに)
梅の花は他のどの花に先駆けて咲くことから
「花の兄」「花兄」(かけい)とも言われます。
なお「花の弟」はたくさんの花が咲いた後の
「菊の花」を表します。
 
香散見草(かざみぐさ)
梅の香りを表した名称。
 
匂草(においぐさ)
春の訪れとともに梅の花が香ることから。
 
その他、「風待草」(かぜまちぐさ)
「香栄草」(こうばえぐさ)
「初名草」(はつなぐさ)