杉玉(すぎだま)

 
 

「杉玉」(すぎだま)

多くの酒屋や酒造の軒先には、
杉の葉を束ねて球状して整えた
「杉玉」(すぎたま)を吊り下げられています。
「酒林」(さかばやし)とも呼ばれています。
 
 
「酒造りの神様」として知られる
奈良県の大神神社の御神木でもある杉を祀り、酒造りの守護を願ったのが始まりとされ、
やがて、酒蔵や酒店の看板としての役割も
果たすようになりました。
 
 
「杉玉」は、竹籠(もしくは針金)を芯にして、
その隙間に杉の葉を差し込み
形を整えながら作り上げたもので、
直径が30㎝位の小ぶりの物から
直径90㎝とかなり大きなものもあります。
 
 
出来上がり当初は本来の緑色をしていますが、
飾っていくうちに変色し、
夏頃には緑が薄くなり、
秋頃には枯れて茶色くなります。
実は「杉玉」の色から、旬の日本酒が何なのか
を知ることが出来ます。
 

 
・2月~6月頃:緑色    ➡「新酒」
・初夏~夏頃:薄い緑   ➡「夏酒」
・秋頃   :枯れた茶色 ➡「ひやおろし」
 
「杉玉」は、
その年初めてお酒が完成した際に
新調するのが習わしで、
概ね2月~3月に飾られ始めます。
鮮やかな緑色をした「杉玉」は
「新酒が出来ました」とか
「新酒が入荷しました」の合図です。
 
 
季節の移り変わりとともに
変化していく「杉玉」の色を見て、
日本酒の熟成度合いの変化に気づくというのは
何とも風情がありますね。
 
新酒
  
 
「酒造年度」は6月30日で切り替わり、
年度内に製造・出荷されるものを
「新酒」(しんしゅ)と言い、
「今年酒」(ことしざけ)とも呼びます。
 
かつては新米をすぐ醸造して酒にしたので
「新酒」と言えば秋の印象が強く、
秋の季語となっています。
現在では「寒造り」が主なので
その感じは薄くなっています。
 

「杉玉」の発祥の地・大神神社

酒造りの神様
日本で最古の神社と言われる
奈良県桜井市の三輪山にある「大神神社」は、
「酒造りの神様」として全国に知られ、
「日本三大酒神神社」として
酒造家達の厚い信仰を集めてきました。
 
 <日本三大酒神神社>
 ・大神神社(奈良県桜井市三輪)
 ・梅宮神社(京都県京都市右京区梅津)
 ・松尾大社(京都県京都市左京区嵐山)
 
大神神社」には、酒の二大神である、
御祭神・大物主大神おおものぬしのおおかみと配祀・少彦名神すくなびこなのかみが祀られ、
また境内には、
杜氏の祖神・高橋活日(たかはしいくひ)
お祀りする活日神社(いくひじんじゃ)もあります。
かつては、大和朝廷の神事の御神酒(おみき)
作るという重要な役割を担っていました。
 
 
 
『古事記』や『日本書紀』には、
崇神天皇が疫病に悩んでいたところ、
夢の中に大物主大神が現れて
「自分をきちんと祀れば国は安定する」というお告げを受けるエピソードが登場します。
指示通りに祀ったところ平穏が訪れ、
崇神天皇は活日(いくひ)という人を
掌酒(お酒を神様に捧げる役目)につけました。
出来上がった神酒が天皇に献上され、活日は「この神酒は 我が神酒ならず 倭なす
 大物主の 醸みし神酒 幾久 幾久」と
歌を詠みました。
天皇やその場にいた人達も、
「味酒」(うまさけ)という言葉を織り込んで
三輪の大物主大神を讃える歌を返しました。
 
しるしの杉玉
大神神社」では、毎年11月14日に
酒まつり(醸造安全祈願祭)」が行われ、
全国の酒造関係者がやって来て、
新酒の醸造安全を祈願し、
酒造界の発展と繁栄を祈ります。
 
拝殿と祈祷殿の向拝(こうはい)に吊られている
直径1.5m・150kgもある大きな「杉玉」が
青々としたものに新調されます。
そして酒造家達は、三輪山の神杉の葉を
球状に束ねて作られた小型の「杉玉」を
持ち帰り、軒先に吊るします。
 
 
大神神社がある三輪山は、
「神奈備」(かんなび)と呼ばれる
神様の依り所(よりどころ)とされている場所で、
その場所にたくさん生えている杉にも
神が宿ると言われています。
 
その神が宿った杉の葉を束ねて作った
「杉玉」には、
酒の神である三輪の神の神徳が宿っており、
これによって酒造りが見守られているという「しるし」なのです。
 

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日本酒と杉の関係

「杉玉」の原料の「杉」ですが、
実は「杉」は様々なシーンで
「日本酒」造りを大きく支えてきました。
 
仕込みの道具
昔は、杉で出来た木樽や道具を使って
日本酒を作っていました。
酒造りの現場では、カビや細菌を防ぐため
縁起の良い物とされてきたのです。
 
今では、杉には「フィトンチッド」という
カビ、細菌、害虫から自分自身を守るために
殺菌作用が備わっていると分かっています。
 
 
日本酒の元となる麹づくりをするために
使われる小型の木箱「麹蓋」(こうじぶた)には
杉が使われています。
 
 
現在では、日本酒の仕込み・貯蔵の際には、
金属製のタンクを使用するのが一般的ですが、
以前は杉材で作られた木桶を使用していました。
 
 
酒母や醪(もろみ)を混ぜるために使われた
櫂(かい)や櫂棒も、杉材で作られていました。
 
樽酒の樽
 
お正月や祝いの席などに振舞われる
樽酒の樽は、日本産の杉で作られているものが
多いですね。
杉の樽に清酒を入れると数日程で香りが移り、「木香」(きが)はお酒の風味の一部として
楽しまれます。
 
 
因みに、奈良県の吉野の杉は、
江戸時代以降、
樽の材料としてとても重宝されました。