河豚(ふぐ)

 

ふぐ

鍋物にしていただくと身体が温まる
高級魚の「河豚」(ふぐ)は、
産卵のため日本沿岸に近づく季節の
冬が最も旬となる魚です。
 

ふぐは縁起物

 
「河豚」(ふぐ)は、
記念日やお祝いの席に
縁起物として喜ばれています。
 
「幸福(ふく)を呼ぶ魚」
 
下関や北九州などでは、
「河豚」(ふぐ)を濁らせずに
「ふく」と呼びます。
 
「ふぐ」は
「不具」(ふぐ)や「不遇」(ふぐう)
といった不吉な語感なので、
縁起を担いで「ふく(福)」にした
のではないかと言われています。
ふくよかな姿に愛くるしい顔つきや模様は、
いかにも福を呼びそうですね。
 
冬の最高級食材である「トラフグ」は、
「幸福(ふく)を呼ぶ魚」とされ、
語呂を合わせて「ふく」とも呼ばれており、
新たな一年の幸せを願う食材にピッタリな
「ふぐの王様」として高い人気を誇っています。
 
いいフグの日
11月29日は「いいフグの日」です。
フグの王様である「トラフグ」の美味しさを
より多くの人に知ってもらうことを目的に、
兵庫県神戸市に本部を置く
全国の国産養殖トラフグの生産者で組織する
「全国海水養魚協会のトラフグ養殖部会」が
制定しました。
 
日付は「11」  と  「29」で
「いい(11)フグ(29)」と読み、
食べた人に福(ふく)をもたらすという
語呂合わせから決められました。
 

フグ食の歴史

古代
日本人とフグとの関わりは古く、
約2万年前の旧石器時代の出土品の中から
フグ科の骨が見つかっています。
縄文時代の狩猟・採集・漁撈の生活の中でも、
スズキやタイと共に各地の貝塚から
フグ科の骨が見つかっており、
好んで食べられていたらしいことが
分かっています。
 
しかしその後の農耕文化の発達によって、
農作物が安定して供給出来るようになり、
魚介資源への依存度が下がると、
フグ食の形跡は減ってしまいました。
 
平安時代に「ふく」と呼ばれるようになる
「河豚」(ふぐ)が「ふく」と呼ばれるように
なった起源は平安時代に遡ります。
日本最古の本草書『本草和名』(918年)には、
ふぐは「布久」(ふく)という名で登場し、
産地などが記されています。
ほぼ同時代の日本最古の分類体の漢和辞典
『倭名類聚鈔』には、「布久」(ふく)及び
「布久閉」(ふくへ)と紹介されています。
 
「布久」(ふく)「布久閉」(ふくへ)という
名前の由来にはいくつかの説があります。
 
1.怒るとお腹をぷっくりとフクらます
  「フクるる」の略から名付けられた
2.怒って「フクれる」と
  「フクベ(ひょうたん)」に似て見える
  ことから名付けられた
3.胃の一部に水を飲み込み、
  水を吹き出して砂中の餌を漁る「吹く」
  ことから名付けられた
 
河豚食用禁止の令
豊臣秀吉が「朝鮮出兵」のために、
肥前名護屋に陣を張った際、
フグを食べて中毒死する者が相次いだため、
秀吉は『河豚食用禁止の令』を出し、
フグ食を禁止しました。
 
この禁令は武家に対しては江戸時代も続き、
中でも長州藩と尾張藩では特に厳しく、
中毒死者を出した家には、お家断絶などの
厳しい処分が科せられたようです。
 
江戸時代
一方、庶民は隠れて
フグを食べ続けていたようです。
江戸時代の料理本には、毒の処理方法や
味付けなどが記されています。
松尾芭蕉も俳句に詠んだり、
浮世絵などに描かれたりもしました。
 
なお、大阪でフグの刺身を「てっさ」、
フグの鍋を「てっちり」と呼ぶのは、
当時、フグを隠語で「*てっぽう」と呼んだ
ことに由来するそうです。
そんな大阪は、現在もとらふぐの消費量1位です。
*てっぽう:滅多に当たらないが、当たると死ぬ
 
フグ食解禁
明治21(1888)年に、伊藤博文によって
フグを食べることが解禁されると、
山口県下関市「春帆楼(しゅんぱんろう)が、
免許を受けてフグ料理を提供する
最初の店となると、フグを食べる文化が
全国に広がっていきました。
 

www.shunpanro.com

 

フグの毒

「河豚は食いたし命は惜しし」と
昔から言われている通り、
フグの卵巣や肝臓には
「テトロドトキシン」という、
青酸カリの数百倍以上もの毒性があるため、
極少量でも死に至ると言われています。
 
フグには沢山の種類がありますが、
大まかに分けると
「食べられるフグ」「食べてはいけないフグ」
「観賞用のフグ」に分類されます。
現在日本では、
「食べられるフグ」は22種類ですが、
どの部位が食べられるかは種類によって異なり、
食べられるとされたものでも
漁獲地域によっては「食用不可」になるなど、
少々複雑です。
 
そのため、フグ専門の免許が必要で、
自治体毎に「ふぐ取扱条例」に基づく規制が
設けられています。
家庭で調理する時は、資格を持った職人が
毒を取り除いた加工品を購入しましょう。
 

日本国内で呼ばれている
フグの様々な異名

フグは地方により、
様々な名前で呼ばれています。
 
 🐡 トミ    ・・・千葉県銚子周辺
 🐡 テッポウ  ・・・大阪府
 🐡 きたまくら ・・・高知県
 🐡 ガンバ(棺)・・・長崎県島原周辺
 🐡 ブッキン  ・・・熊本県
 🐡 いかふぐ  ・・・富山県
 🐡 まふぐ   ・・・広島県
 🐡 ふく    ・・・山口県
 🐡 くろもんふぐ・・・大分県
 
 
フグ流通業界では、フグのことを
「丸」(まる)と呼ぶことがあるそうです。
明治初期のフグ食禁止の頃に
裏ルートでフグを売っていた際に
使われていた暗号だそうです。
「丸」はフグが膨らんで
丸々としている姿からついた呼び方で、
今でも九州や山口県などで使われている
そうです。
 

食べられるフグ

フグの仲間は世界におよそ100種類います。
そのうちに30種類程が
日本の沿岸もしくは近海に
生息していると言われており、
「食べられるフグ」とされているものは、
フグ科に属する魚種17種で、
ハリセンボン科とハコフグ科を含めると
22種類になります。
 
市場価値が高い種は
「トラフグ」「カラスフグ」「マフグ」の3種。
その他には、ショウサイフグ、ヒガンフグ、
シマフグ、ゴマフグ、アカメフグ、ナシフグ、
シロサバフグ、クロサバフグ、カナフグなどが
います。
 
1. トラフグ
 
「フグの王様」とも言われ、
高級フグ料理の代表選手「トラフグ」は、
日本で食用と認められる22種類の中で、
最も高価で美味とされています。
 
天然物は12月〜2月が旬ですが、
近年は養殖も増えて、
美味しいトラフグが
年中食べられるようになりました。
 
ふぐ刺身、ふぐちり、ふぐ皮湯引き、
ふぐから揚げなど、様々な料理があります。
 
2. カラスフグ
「トラフグ」に非常に似た魚で、
昭和24(1949)年まで同種とされていた種です。
ガートラ(北海道)、ガトラ(東京都)、
クロ(京都府、大阪府、山口県)、
ヒゲグロ(広島県)、ダイマル(福岡県)、
クロモンフグ(長崎県)などという
地方別の呼称があります。
「トラフグ」にはやや劣るものの味はよく、
鍋やお刺身、から揚げなどで食べるのが
おススメです。
 
3. まふぐ
身体にトゲがないのが特徴で、滑らかなので
「ナメラフグ」とも呼ばれています。
味はやや劣りますが、「トラフグ」の代用として、
広く食べられています。
1月下旬〜3月に旬を迎え、ちり鍋にしたり
お刺身やから揚げなどにしたりします。
 

フグ料理

 
フグ料理は、山口県など西日本を中心に
作り上げられ、第二次世界大戦後に
全国へ広まりました。
ふぐの本場とされる下関市、北九州市などでは
濁らずに「ふく料理」、
大阪などでは「テッポウ料理」あるいは
「テツ料理」などとも呼ばれる。
 
フグの栄養効果
高級食材としても知られる「フグ」は、
味の美味しさは勿論、健康や美容にも
良いとされている食材です。
 
 
「フグ」の主な栄養素はたんぱく質で、
カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、
ナイアシン、ビタミンD、ビタミンB12など、
様々な栄養素を含んでいます。
旨み成分のグルタミン酸やイノシン酸が
多く含まれています。
皮の部分には、コラーゲンが豊富に含まれて
います。
 
 
フグ刺し
 
フグの身の刺身のことで、
関西では「てっさ」と呼ばれます。
 
フグの身は弾力が強く噛み切れないため、
薄く切って味に集中し歯応えを楽しめるように
生み出された調理法が「薄造り」です。
料理人の腕前によって
食感や出来栄えが左右され、
高い技術が必要となる調理法です。
 
 
大皿への盛り付け方にも種類があり、
菊の花のように盛り付ける「菊盛」、
牡丹の花に見立てて盛り付ける「牡丹盛」
などがあり、盛り付け方を堪能することも、
フグ刺しの楽しみのひとつです。
 
 
フグ刺しは皿の外側から円を描きながら、
中央へ向かって盛りつけていきますので、
中央から外側へ円を描くように箸を進めると、
最後まで美しい盛り付けを崩さずに
食べることが出来ます。
 
 
そして添えてある「フグネギ」1〜2本を
「フグ刺し」2〜3枚で巻き、
お好みの薬味を入れたポン酢につけて
いただきます。
フグの淡白な味を引き出すポン酢の酸味と、
ネギや薬味が一緒に合わさることで、
深い旨味が口の中に広がります。
 
てっぴ(鉄皮)
 
「てっぴ(鉄皮)」とはフグの皮のことです。
コリコリとした独特の歯応えが味わえます。
フグ刺しに添えられることも多く、
刺身と同じように薬味とふくポン酢で食べます。
煮こごりにして前菜として提供されることも
あります。
 
ふぐ鍋・ふぐ雑炊
 
フグ鍋は、フグの身と野菜などを
昆布だしで煮込んだ鍋料理です。
関西では「てっちり」と呼ばれます。
お好みで薬味をつけて、
ポン酢につけて食べましょう。
 
 
フグ鍋を食べ終わったら、
残ったスープにそのままご飯を入れ、
塩などで軽く味付けして卵でとじ、
アサツキなどをパラパラと乗せて
雑炊を作り、最後の一滴まで楽しみましょう。
 
ふぐの唐揚げ
 
調味料で下味をつけたフグの身を
サッと油で揚げた料理で、
家庭でも挑戦しやすい料理です。
サクサクとした衣の食感と、
ふんわりとしたフグの身の組み合わせが
塩をつけて食べましょう。
 
 
フグの淡白な旨味を損なわないよう、
レモンやカボスの搾り汁など、
あっさりした味付けにするのがオススメです。
 
白子
 
白子はトラフグの精巣に当たり、
産卵期前である1月~3月頃が最も旬です。
「海の宝石」とも呼ばれ、
クリーミーで、濃厚な味わいが楽しめます。
 
ひれ酒
 
フグのヒレを乾燥させ炙ったものを、
熱燗に浸して、フグの旨味を酒に移し、
楽しむ飲み方です。
 
河豚の卵巣の糠漬け
 
猛毒が含まれていることで知られている
フグの卵巣を2年以上
塩と糠に漬けることによって無毒化したのが
「河豚の卵巣の糠漬け」です。
塩に漬けておく期間が長いため、
塩気が強いのが特徴ですが、
その濃厚な味わいはご飯のお供には勿論、
お酒の肴やお茶漬け、パスタなどにも
よく合います。