仏教三大聖樹

仏教の「三大聖樹」(さんだいせいじゅ)とは、
それぞれの樹には、お釈迦さまと関係の深い
エピソードがあります。
 
 
お釈迦様が生まれた所にあった木
「無憂樹」(むゆうじゅ)
  
 
お釈迦様の生母・麻耶(マーヤー)夫人は、
出産のために里帰りしていた道中、
「ルンビニー園」という花園に差し掛かった時に
産気づき、「無憂樹」の木の下で出産したと
言われています。
 
   
 
これは春暖かな4月8日のことで、
「ルンビニー園」には花が咲き誇っていました。
このお釈迦様が誕生したと言われる4月8日は、
現在も「花祭り」が行われています。
 
 
「無憂樹」(むゆうじゅ)は、
インド・スリランカ・ミャンマー原産の
マメ科の植物で、高さ25mにもなる高木です。
黄色から橙色の花を咲かせます。
花びらは無く、黄色から橙色の長く伸びた
(がく)の先から、雄しべと雌しべが突き出し、
数十個の花が丸く集まって付きます。
 
麻耶(マーヤー)夫人のお産が軽かったことから
「無憂樹」と名付けられたと言われています。
 
「無憂樹」はその名の通り、
「憂いの無い木」として
インドでは「乙女の恋心を叶える木」、
出産・誕生・結婚に関わる
「幸福の木」とされています。
 
なお「仏教」の他、「ヒンドゥー教」でも
「聖樹」とされています。
 
お釈迦様が悟りを開いた所にあった木
「印度菩提樹」(いんどぼだいじゅ)

 
お釈迦様は苦行難行の末、
「菩提樹」(ぼだいじゅ)の樹の元で坐禅を組みます。
12月8日明けの明星をご覧になられて、
お悟りを開かれました。
 
 
お釈迦様がこの木の下で座禅を組んで
真理(菩提)を悟ったことから、
サンスクリット語で「完全に理解する」
「覚醒する」といった意味を持つ
「ボーディー」という言葉が由来です。
 
インドでは、「アシュバッタ(阿説他あせつた)」
あるいは「ピッパラ(畢鉢羅ひはつら)」と呼ばれ、
古くから聖木として扱われて来ました。
数珠の材料や薬の原料としても利用され、
インドの「国樹」になっています。
 
「菩提樹」は常緑の高さ30mにもなる高木です。
葉の先端が細長くなっているのが特徴です。
これは雨の多い地帯に特有の形で、
雨をスムーズに受け流すように発達したと
言われています。
 
 
 
ところでこの「菩提樹」は、
クワ科の「印度菩提樹(インドボダイジュ)」です。
一方、日本で「菩提樹」と呼ぶものは、
シナノキ科のChina原産の落葉高木です。
「印度菩提樹」は熱帯植物のため
寒さに弱く、Chinaでは育たなかったため、
葉の形が似ているシナノキ科の木を
「菩提樹」と称したのです。
 
 
日本に最初に「菩提樹」を請来した人は、
栄西禅師です。
今から約800年前、臨済宗の開祖・栄西禅師は
南宋から持ち帰った「菩提樹」を
文治5(1189)年に香椎かしい文治寺ぶんじじ(報恩寺)に植え、
建久6(1195)年には東大寺鯖木の跡にも植え、
その後、各地の寺院に植えられるように
なりました。
東大寺では今でもそこに現存しています。
 
この「支那菩提樹」は、高さは10m程になり、
6~7月頃に淡黄色の花が開花します。
 
お釈迦様が亡くなった所にあった木
「沙羅双樹」(さらそうじゅ)
 
「沙羅双樹」(さらそうじゅ)は、
『平家物語』の冒頭
「祗園精舎の鐘の声  諸行無常の響きあり
 沙羅双樹の花の色  盛者必滅の理をあらはす 
 おごれる人も久しからず 
 ただ春の夜の夢のごとし 」
の一説で有名な樹木です。
 
 
『平家物語』に出てくる
「沙羅双樹」と表現されている樹木は、
実は本当の「沙羅双樹」ではありません。
本当の「沙羅双樹」は、
「沙羅(さら)の木」というインド原産の
フタバガキ科の樹木で、
高さ30mにもなる熱帯の常緑木です。
 
 
 
「沙羅双樹」の由来は、
お釈迦様の入滅が関係しています。
お釈迦様は、80歳の時にクシナガラの地の
ヒランニャバッティ河のほとりで横たわり、
入滅(死去)されました。
その際に、2本の対になった「沙羅双樹」が
生えていたことが由来と言われています。
 
お釈迦様が亡くなる際には、
「沙羅双樹」は花を咲いていて、
良い香りが周囲に漂っていましたが、
お釈迦様の入滅を悲しんで、
双樹が1本ずつが枯れ、
鶴のように白くなって
お釈迦様の死の床を埋め付くすかのように、
花びらが舞い散ったと言われています。
 
『平家物語』では、
「沙羅双樹」の花の色が
一瞬のうちに変わることを、
この世のものは絶えず変化して
いつまでも存在するものではない
「無常」のたとえとして用いられています。
 
「沙羅双樹」は、インドの中北部から
ヒマラヤにかけて分布している樹木です。
開花は3~7月、小さな花が密集して咲き、
淡くて黄色の花を咲かせます。
香りはジャスミンやオレンジが合わさった様な
甘い爽やかな香りを放ちます。
 
 
しかし「沙羅双樹」は寒い気候に適さないため、
日本では、滋賀県にある植物園でしか
見ることが出来ません。
そのため日本では、ツバキ科の落葉樹で、
6月~7月にツバキに似た白い花を咲かせる
「夏椿」(なつつばき)を代用しています。