御神輿(おみこし)

 
 
お祭りのシーズンになると「神輿」を威勢良く担ぎ
町内を練り歩く姿をよく見かけます。
 
 

神輿とは

「神輿」(みこし)を音読みして「シンヨ」とも言います。
「神輿」は、年一回の「例祭」後あるいは
祭礼中に行われる「神幸祭」に際して、
御神体あるいは御霊代(みたましろ)がお乗りになる
輿(こし)のことを言います。
 
「神輿」は、
一時的にでも神様がいらっしゃる場所であるため、
その形や装飾も神社を模して作られています。
そのため、神輿には鳥居があり、
屋根には神輿が所属する神社本殿に倣った形が多いようです。
 
普通は、木製の黒漆塗りで、形状は四角や六角、八角などがあり、
「台」と「胴」と「屋根」の
大きく分けて三つの部分から成り立っていて、
屋根の中央には
「鳳凰」または「擬宝珠」(ぎぼし、ぎぼうしゅ)などの飾りが
置かれています。
 
これは、「鳳凰」が飛ぶと、
乱れた世の中を救ってくれる聖人が現れると
信じられてきたことに由来しています。
 
「鳳凰」
    
 
「鳳凰」(ほうおう)はChinaの伝説上の霊鳥。
「鳳」は雄鳥を、「凰」は雌鳥を表しています。
360種の羽を持つ動物の長であり、
聖天子の治める、平和な世にのみ姿を現すと
されています。
 
鳳凰が飛ぶ時には、
その徳によって雷も嵐も起こらず、河川も溢れず、
草木も揺れないと言われています。
 
鳳凰が空を飛べば、他の鳥もその後をついて飛び、
鳳凰が死ねば多くの鳥が嘆き悲しんだという。
梧桐(あおぎり)という木に巣を作り、
竹の実と甘露のみを食物としました。
 
古代Chinaの書物『礼記』では、
「麒麟」「亀(霊亀)」「龍(応龍)」とともに
特別な瑞獣「四霊」(もしくは「四瑞」)のひとつであり、
平安を表すとされました。
これは鳳凰が雌雄一対であることから、
陰と陽の対立を持って調和をなすとする「陰陽思想」
から来ています。
「擬宝珠」(ぎぼし、ぎぼうしゅ)

  

 
 伝統的な建築物の装飾で、
 橋や神社などの柱の上に設けられている飾り。
 ネギの花に似ていることから
 「葱台」(そうだい)とも呼ばれています。
 伸長途中の花茎の先の苞の集まった形が
 「宝珠」(ほうじゅ)に似ていることから
 「擬宝珠」(ぎぼうし)という和名が生じました。
 
 「宝珠」は釈迦の骨壺(舎利壺)の形とも、
 龍神の頭の中から出てきた珠のこととも言われ、
 地蔵菩薩などの仏像が手のひらに乗せています。
 
 

神輿の起源

神輿の起源は諸説あります。
 

祭壇起源説

狩猟や食物採取を中心に生活をしていた
縄文時代から弥生時代、
収穫祭の際に用いられた祭壇が神輿になったというものです。
その時代、人々は狩猟や食物収集のため、
あちこち移動していましたが、
その際、神様がいらっしゃる「祭壇」を
そのまま担いで一緒に移動していたと考えられており、
これが「神輿」の起源であるというものです。
「祭壇」は収穫祭が終わると取り壊され、
毎年新しい祭壇が作られていましたが、
人々が定住しするようになると神様も定住され、
神様の居所として「神社」が誕生しました。
そして、神様の乗り物として「神輿」が継承され、
現在のような形になったと言われています。
 

八幡神を乗せる神輿が起源 

神輿が文献上に初めて登場したのは奈良時代。
『八幡宇佐宮御託宣集』(はちまんうさぐうごたくせんんしゅう)には、
養老(720)年、九州で「隼人の乱」といわれる反乱が起こり、
朝廷は宇佐八幡宮(うさはちまんぐう)
国家鎮護と隼人討伐を祈願しました。
武運の神様である「八幡神」がこの願いに応じたので、
朝廷は八幡神が乗る神輿を作らせ、
隼人の乱の鎮定に赴いたとあります。
 

天皇の乗り物が起源という説

天平勝宝元年(749年)、
聖武天皇が東大寺の大仏の建造に当たって、
宇佐八幡宮の八幡神を奈良の都へと遷座させる際に、
「鳳輦」(ほうれん)と呼ばれる乗り物が用いられたというものです。
 
「奈良時代の中頃(天平勝宝元年・749年)、
 九州の宇佐神宮(うさじんぐう)の八幡の神(やはたのかみ)が、
 東大寺の大仏建立に無事祈願というお告げを出しました。
 その八幡の神が遷座(移動)するのに
 紫色の輿(天皇、皇后の乗り物)が用いられた。」
 
この紫色の輿がそれ以後、お神輿として世の中に普及しました。
 
このように神輿の起源は諸説ありますが、
平安時代になると「御霊信仰」(ごりょうしんこう)が盛んになり、
その怨霊を慰め祀るために「神輿」が作られるようになり
日本各地へ広がっていきました。
室町時代には、各地で今に近い形の祭が行われ、
「神輿」が担がれていたと言われています。
 
 

いろいろな神輿

現存する最古の神輿は、
鎌倉時代初期に造られた「誉田(ごんだ)八幡宮」(大阪府)所蔵の
金銅装様式風のお宮造り神輿です。
 
風変わりな神輿としては、
里芋の茎で神輿の屋根を葺き、色々な野菜、花などで飾った
「瑞饋御輿」(ずいきみこし)(北野天満宮)があります。
 
 

神輿を担ぐ意味

「神輿」は神様がお祭りの時に神社から出られて、
偉大な力を振りまき、災厄や穢れを清めるからと言われています。
 
また、神輿が人より高い位置で肩に担がれるのは、
神様を敬愛する気持ちの表れとされ、
御旅所などでの休憩時も神輿は地面には下さず、台の上に置かれています。
 

魂振り(たまふり)

神幸の途中、神輿を上下左右に振り動かしたりして、
わざと荒々しく扱う光景を見かけることもありますが、
実はこれは練り歩きの決まりごとなのだそうです。
 
これは神輿に坐す神様の「魂振り」(たまふり)で、
これにより神様の霊威を高め、豊作や豊漁、疫病の退散がなると
信仰されているのです。
 
また地域によっては、最後の宮入の時に海浜や川辺に行って
水の浄化力で厄災を洗い流したり、
「神輿落し」と言って階段からお神輿を落として壊すといったことも
行われます。
これは神輿についた災厄を祓って清める、一種の禊神事と考えられています。
 
 

掛け声

お神輿を担ぐ時、「わっしょい!わっしょい」
「エッサ!エッサ!」「セイヤ!ソイヤ!」などの
掛け声がなされています。
 
「わっしょい」の語源は
「和を背負う」(わをせおう)や「和一処」(わいっしょ)
「和と一緒」「和一緒意」などと言われています。
昔の日本を和(のちの大和)と呼んだ時の名残りだと考えられており、
日本(大和)の団結を象徴した掛け声と言われています。
 
「エッサ!」は、
物を運ぶ時にお互いがタイミングを合わせるための
「えっさ、ほいさ」という掛け声が由来と言われています。
 
「ソイヤ!」は漢字で「素意成」と書き、
「素直な心を持って成りとする」という意味があると言われています。
また「それ行けや!」という掛け声が転じたのが
「ソイヤ」とも言われています。
 
「セイヤ」や「オイサ」は「ソイヤ」が変化したと
考えられています。
 
「よいやさ」
「弥栄」(いやさか、やさかえ、やさか)という言葉で、
「一層栄える」という意味があるそうです。
 
これらの掛け声には、他にも様々な説があります。
掛け声には特に意味はなく、
担ぎ手達のタイミングを合わせるためや、
太鼓などと調子を合わせるために生まれたという説もあります。
 
 

御輿の練り歩き(「神幸祭」「神輿渡御」)

日本の神様は、お祭りの時に、
自分の管轄地域の人々のもとにお神輿に乗って出て来られ、
地域の災厄や穢れを吸収して清めます。
そして終わればまた神社へお帰りになります。
この練り歩きを
「神幸祭」(しんこうさい)または「神輿渡御」(みこしとぎょ)と言います。
 
<練り歩きの手順>
  • 宮出し[出御(しゅつぎょ)
    神社に鎮座している神様の御霊をお御輿に移す。
      ⇩
  • 練り歩き[渡御]
      ⇩
  • お旅所(おたびしょ)[御旅の宮、神輿宿、御仮屋]
    神幸の中継地および目的地となる所。
    担ぎ手に酒などが振る舞われる休息所。
    本社や御祭神に由緒のある場所が選ばれる
    お旅所の数はそのお祭りの規模により、
    広い範囲になると多くなります。

      ⇩
  • 練り歩き[渡御]
      ⇩
  • 宮入り[還御](かんぎょ)
    神社へ戻ってこられます
    最後にお神輿を高く差し上げ、お祓いを受けます。
 
 

「御輿」と「山車」

ところで、 「神輿」に似たものに「山車」(だし)がありますが、
どう違うものなのでしょうか?
 
「山車」(だし)は、鉾(ほこ)、松や杉、人形、鳳凰といった
多くの飾りを付けて引く屋台のことを言います。
関東では「屋台」、関西では「檀尻」(だんじり)と言ったりします。
元々は神様の依代(よりしろ)でしたが、
今は貴重な美術工芸品として見られることが多いです。
毎年7月に行われる「祇園祭」の山車は
「山鉾」(やまほこ)と呼ばれて、
屋台の上に多種多様の鉾、長刀を立てた大変に豪華絢爛なものです。
 
「神輿」は神様の乗り物という意味です。
「山車」も「御輿」と同じように神様が宿るものとする所がある一方、
神様が乗るものではなく、人が乗って太鼓を叩いたり踊ったりして
神様のお供や先導をする役目のものとしてお祭りに登場するところもあります。
 
  • 御神輿:神様の乗り物。
        担ぎ棒が付いていて、人が担ぐもの。
  • 山 車:神様が乗る物ではない。
        台車に乗っていて、
        人が引き綱を引っ張るもの。
 

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